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バンド・デジネの世界	Le monde de la bande dessinéeバンド・デジネの世界	Le monde de la bande dessinée

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バンド・デシネ超入門


原 正人

みなさん、バンド・デシネという言葉をご存じですか? バンド・デシネとはフランス語でマンガのこと。なーんだ、と思われるかもしれませんが、マンガと言っても、日本のマンガとはちょっと違うんです。古くは1960年代後半あたりから日本への翻訳紹介が始まったバンド・デシネですが、決して一般には広く知られていませんでした。そのバンド・デシネが、ここ数年、刊行点数が増えたり、有名作家が来日したり(2016年3月には巨匠エンキ・ビラルが来日!)、展覧会が行われたり(2016年7月にはルーヴル美術館×バンド・デシネの展覧会が日本で行われます!)と、少しずつ注目を集めています。
海外コミックスを電子配信しているこのComic Catapult(コミックカタパルト)でも、ついにバンド・デシネが配信されることになりました。まずは今年2月からフランスの電子コミックスストアIzneo(イズネオ)が配信しているフランス語のバンド・デシネが、「ソク読み」でそのまま購入できることに。配信される作品は、最終的にはかなりの数にのぼる予定。バンド・デシネの原書を読める場所はそうたくさんはありませんし、普通はフランスで買うより高くなってしまいますから、貴重な存在になりそうです。まずは立ち読み感覚で、ぜひ試し読みしてみてください。もちろんフランス語版じゃ仕方ないよという人もいますよね? そんな人のために邦訳バンド・デシネも3月末から順次配信予定! そちらもお楽しみに!
ということで、今回は、これからバンド・デシネを読んでみようというあなたのために、バンド・デシネの世界をご紹介しちゃいます。

既に述べたようにバンド・デシネとは「マンガ」を意味するフランス語。Bande Dessinéeと綴り、直訳すると、「絵が描かれた帯」という意味です。その頭文字を取ってBDと呼ばれることもあります。その場合の読みは、「ベーデー」または「ベデ」。この文章の中でも以下、BDと呼ぶことにしましょう。
「そもそもフランスにマンガなんてあるの?」というあなた、あるんです。例えば、『タンタンの冒険』。読んだことはなくてもきっと絵は見たことがあるはず。2011年にはスティーヴン・スピルバーグの手で映画化もされています。あるいは、『スマーフ』。青い肌に白い帽子をかぶった小人で、日本ではかつて雪印乳業のチーズの宣伝に使われていました。ちなみにこちらも2011年に映画化されています。あれ?でも、『タンタン』や『スマーフ』はベルギーのマンガじゃ… そうなんです。ベルギーのマンガもBDなら、スイスのマンガもBD。BDはフランスのマンガというよりは、「フランス語圏のマンガ」なんです。
ちなみに2000年以降に出版され、人気を博しているBDに『ブラックサッド』があります。邦訳版を読んだことがある人もいるかもしれませんね。1950年代のアメリカを舞台にしたハードボイルドな探偵もので、登場人物はすべて擬人化された動物。主人公も黒猫の探偵です。この作品の作者フアン・ディアス・カナレスとフアンホ・ガルニドは、実はスペイン人。フランス語圏の作家ではありません。でも、彼らのこの作品は最初にフランス語で出版されているんです。だからこれもれっきとしたBD。彼らのような外国人作家は増えていて、中にはアジア人BD作家もいたりするんですよ。

では、そのBDにはどんな特徴があるのでしょうか? 日本マンガと比較しつつ、もう少し具体的に見てみましょう。
一番の違いは判型にあります。日本でマンガと言えば、少年マンガや少女マンガによくある新書版、あるいは青年マンガに多いB6版が思い浮かびますが、BDの典型的なフォーマットは、A4版かそれより一回り大きい判型。表紙はジャケットなしのハードカバー、ページ数はずっと少なく、平均的なもので48ページや64ページ。そのため、パッと見、絵本を思わせます。ちなみに読む方向は日本マンガとは逆。右開きではなく、左開きになります。 左がA4版の『アステリックス』、右が一回り大きい『ミロの世界』、手前がB6変形版の『ラディアン』
もう一つの大きな違いは、中身がオールカラーである点。ますます絵本っぽいですよね。着色は作家本人がすることもあれば、カラーリストという着色の専門家がすることもあります。
「48ページ、オールカラー(couleurs)、ハードカバー(cartonné)」。これが典型的なバンド・デシネということになりますが、フランス語ではこの形式的特徴を「48CC」と呼んだりします。
48ページとはいえ、全ページに着色を施すとすれば、相当な労力がかかります。作家本人が着色するとすれば、なおさら。そんなこともあって、バンド・デシネの刊行ペースは日本のマンガに比べると、ずっとゆったりしています。日本では、週刊誌に掲載された作品なら、3カ月か4カ月ごとに単行本が刊行されますが、バンド・デシネの刊行ペースは、多くの場合、一年に一冊。場合によっては、数年に一冊ということもありえます。また、かつては、雑誌連載を経て単行本になることが多かったのですが、BD雑誌は、1990年代くらいまでに、ほとんど消滅してしまいました。そのため、今は単行本描き下ろしであることが多いのです。
ただし、ここで述べたことは、あくまで一般的な特徴にすぎません。例えば、白黒のBDや文庫本サイズのBD、3~4カ月のペースで刊行されるBDだって存在はしています。また、BDの邦訳版は、日本人向けに判型を小さくし、合本にしてボリュームを持たせていることが多いこともつけ加えておきます。
とにかく、日本のマンガと比べると、BDはオブジェ性が高い! BDを買ったことがある人ならわかると思いますが、BDの単行本には、思わずなでなですりすりしてしまいたくなるような物質的魅力があるのです。それは、外面的な話にとどまりません。絵柄にしろ、着色の仕方にしろ、BDは一冊一冊の個性が際立っています。もっともデジタルで読むとなると、少し事情が異なってくるかもしれませんね。形式的な部分でのオブジェ性を気にしなくてよくなる分、ものものしさが減って、気軽に読めるようになるかも?

BDの基本的なことがわかったところで、さっそく作品を読んでみましょう。でも、どこから手をつけたものか、ちょっと悩んでしまいますよね? BDには恋愛ものやスポーツもの、料理・グルメものがあまりありませんが、それ以外は日本のマンガとそう変わりはしません。アクション、サスペンス、SF、ヒロイック・ファンタジー、幻想怪奇もの、探偵もの、歴史もの、戦記もの、エッセイ、ルポルタージュ、エロ、伝記、ギャグ、文学原作、子供向けなどなど、切り取り方次第で、BDはさまざまなジャンルに分類できます。これが好きというジャンルがあれば、そこから読んでみるのも一つの手でしょう。特にヒロイック・ファンタジーやSF、サスペンスは大人気のジャンルで、かなり多くの作品が存在しています。未邦訳作品の中で「ソク読み」で既に配信が始まっている『ⅩⅢ』は、大ヒットしたサスペンスですし、『Valérian(ヴァレリアン)』はロングセラーのSFで、リュック・ベッソンの手で映画化されることが決定しました。
もっともこうした現地のヒット作は、意外なことにあまり邦訳されていません。ここ2、3年で少し様子が変わってきてはいますが、フランスでよく売れた作品というよりは、優れたアーティストと見なされる作家、例えば、メビウスやエンキ・ビラル、フランソワ・スクイテン、ニコラ・ド・クレシーらの作品が多く邦訳されている傾向があります。絵柄を見て、これはと思う作家がいれば、そこから入るというのも一つの手でしょう。
今回は具体的におすすめ作品をご紹介はしませんが、機会があれば、ぜひ改めて、おすすめのBDをご紹介したいと思います。
2010年以降だけ見ても、既に100冊近いバンド・デシネが邦訳されています。その中からもきっとお気に入りのBDを見つけることができるでしょう。2013年の前半までに刊行されたBDについては、『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)というムックの中で紹介されていますので、ぜひそちらも読んでみてください。
どうかあなたがお気に入りのBDと出会えますように。